ボクの某国論
HOME
其の二十五 バスは、文化の縮図だね    

2002年某国首都に初めて赴任した際、駐在員は運転手付のレンタルカーを使う事になっていて、仕事上もプライベートも主な交通手段はこれ一本であった。一部の車メーカー以外どの日本の会社でも 当時は運転が危険だという事で社員の運転をプライベートであっても禁止していた。したがって 会社としては、社員と社員の家族向けに交通手段としてレンタル車両を契約していた。

通常は社員数に応じてレンタル車が数台あったので 社内には、その運転手用の控室があり いつでも待機してどこにでも行ってくれる便利な環境が整っていた。それ故公共の交通手段には目が向くことはなかった。時々タクシーを使うことはあったが、どこに行くのかルートも分らない公共バスはまず乗ろうとも思わない存在だった。住所制度でさえしっかり整備されていない某国首都では バス停に書かれている名称などは、目的地を探す上でもなんら目安にもならない。「次は、呉さんの窯業所」「次は、胡さん村」「次は、ガラス工場跡です。」と言われても地図にも書かれている地名とも合致しないし 地元の人以外わかるかそんなバス停の名前!

 某国首都を走っているバスは、「公交車」と呼ばれ 私が赴任した頃は、外見もみすぼらしく不潔な感じで 乗り慣れるまではどの路線でどこに向かうかもわからない存在だった。バスの車体は、いわゆる広告ラッピングと呼ばれるシールが張られ 走る広告塔になっていたが、はがれたり重ね着させているものだから汚らしくなる。

 空調付と自慢げに表示してあるバスとそうではないバスでは、値段も違うと聞いていた。ガソリン車が中心だったが、バスによってはガソリンなどではなく屋根に電柱を立て道路上に張り巡らされた電線ルートに沿って走る昔の日本では“トローリーバス”と呼ばれたタイプも存在した。このトローリーバスは、私が56才の頃 宇都宮市の街を走っているのを見て以来 久々に目にした。日本ではとっくに姿を消したタイプであるはずだ。懐かしさもあって某国首都で一度乗ってみたが 電気で動く割にはモーター音がうるさい!しかも 中には車掌が乗っていてこれもうるさかった。

 たまたま 気が向いて乗ってみたが、乗ったとたんに車掌に「どこまで行く?」と聞かれて困った。目的地などなくなんとなく乗ったのだから 「どこまで?」と言われても答えに窮すのだ。車掌が目的地を聞くのは、当然行く場所によって料金が異なるからである。当時某国市内は、距離によって、または、空調があるかないかで1元か2元の2種類の料金体系だったと記憶しているが、こういう場合は、適当に「3つ先の停留所まで・・」ぐらいの返答をして1元を払うことに。大体 バスの路線数が多いのはわかるが どういうルートに何番のバスが走っているかなどはさっぱりわからない。どこまでが1元でどこまでが2元になるかもわからず、切符買うのに小銭を持たず100札など出そうものなら 態度の厳しい車掌にどやされた。よって 某国生活を始めた頃、バスを使うなんてことはめったになかったのである。

 2008年の某国首都オリンピック開催を前に 面子を重んじる某国の指導者たちは、今まで走らせていた黒煙を吐くボロバスとボロタクシーの一掃に取り掛かった。あっという間に近代的なバスが導入され始め 社内の清潔度も格段に向上した。2階建てバスも欧米との合弁で国内生産され, 洒落たカラフルな色合いの近代的タイプが走るようになって、同時にワンマン化も進み ボロバスと態度の悪かった車掌はセットで姿を消していったのである。地下鉄とバスの共用プリペードカードが発行され それを持っていればカードリーダーにタッチするだけ 車掌に「どこまで行くの?」と聞かれる煩わしさもなくなった。

 私のほうも、会社の経費節減のため高いお抱え運転手&レンタルカーをやめて 時とともに便利になる公共バスと地下鉄を使うようになった。会社は利益が出始めていたが、細かい経費を切り詰めてこそ、さらなる安定した運営ができるのである、そのため会社のあらゆる経費をつめて 20台ある社有車も軽自動車に変えて燃費を節減してきたので 私自身も率先してバス通勤に変えたわけだ。運転手をやめると遠出のときは困るが、運転免許を取りそういう時は自分で運転すればよい(日本本社も運転を認めるように変化してきた)。また 特に休日に移動するときは、今まで目にしていたが乗ったことはない路線に乗ってどこに行くのか冒険してみるのも面白かった。停留所は多すぎて、いちいちその名前を覚えるのはできなかったが 何番のバスがどの道を走り どこで何番のバスと交わるなどと知識がついてくると楽しいものである。次第にバスを利用する機会が多くなった。

 前述した公共交通手段で共有できるカード(日本のスイカみたいな)が使えることは大きなメリットである、第一利用料がバカ安い、某国首都の場合市民サービスの向上ということで1元だった路線価格が4毛(0.4元)になって カードに100元チャージしたら何か月もチャージする必要がなくなった。2階建てバスの2階最前列に陣取り 某国首都の第2環状道路や第3環状道路を一周するバス路線で一日カメラを抱えて時間をつぶすこともあった。

 天津に移動してのちは、自分で車を運転するほうが増えたが それでもバス路線を使うことは多かった。バスの路線を知れば知るほど 町の状況や市民生活を理解することもできるのである。

 某国の市内路線バスは、日本のバスのように目的地表示ではなく「782」「301」「776」「812」といったナンバー表示である。よく見れば最終地名も据え置きプレートには書いてあるが ナンバーをLED表示にしているので いつでも別の路線に回すことができるようになっている。だから ナンバーを覚え どこに何番のバスが走っているか注意深く観察すると タクシーがなくても家に帰りつくことができるようになる。路線はやたらと多いのである。まさに庶民の足であり 市内なら一乗車最高2元で、乗りついてどこにでも行ける。

 ただ交通カードの使えない路線に当たることがある、そのために1元とか2元の小銭を常に持っていないといけない。大抵ワンマンバスの運転手は「おつりはないよ!!」というのが当たり前だからである。20元札しか持っていなくて 乗ってから気がついてももう遅い おつりがないので1元のため20元を払うことになってしまう。某国人がこういう状況になった時は、同乗している客に金が崩せないか聞きまわってなんとか崩しているが 私などはそんな気の利いたことはできないので損をすることが何度もあった。

 ここまで読まれた方 はやり某国のバスは日本のバスに比べ遅れているね・・と思われるかもしれない。運転手のサービス精神という方面では確かにまだまだである。公共バスということ良い事に平気で交通違反する運転手も多い、長い信号待ちで乗客をバスに乗せたまま 一人でバスを降りて車脇で立ちションをする運ちゃんだって普通だ。でもね・・・バスの運用システムは、ある面で日本よりはるかに優れているところがあるのですよ・・・・ 

 まず 某国のバスはすべてGPS機能を搭載して すべての路線で運行しているバスの状況が 携帯電話のアプリで表示できる。このアプリを使えば 自分が今いる場所の付近500メートル圏内のすべての停留所名が距離別に表示される。画面を地図に切り替えればどうやってその停留所まで行けるかわかるのだ。今度は、停留所名をクリックすればそこに走る路線バスがすべて表示され、路線バスナンバーをクリックすれば 上下線ともに何分後にバスが来るか一目でわかる仕組みになっている。バスにのって自分のバスがどういうルートを走り 今どこを走っているかもリアルタイムで地図表示される。日本のバス停には、到着時刻が表示されているが 某国ではそんな表示はない・・・大体時間通り走れないからである。その分 このようなシステムでカバーしている。バスの車内には、死角のないようにカメラがついており運転手から後ろまで見ることができる。

 天津市は、完全電動バスが主流になりつつある。市内各所に充電所が整備され 大型バッテリー交換方式と充電ケーブル接続型の2種類が使われている。万一のための小型ガソリンエンジンも積んでいてハイブリッドであるが 先進的と言えるだろう。






 バスのタイプもバラエティに富んでいる。交通量の多い路線は、2連結バスが主流で2階建てバスもあり 小型マイクロバスタイプも路線バスとして使われている。観光地には、2階建てバスが様々なタイプを取り揃えて走っている。

  最後に私が毎日通勤に利用するバスを紹介しょう! 朝 停留所をアプリで検索 どっちの停留所に先にバスが来るかで 停留所を決める。バス停に立ち携帯アプリで検索すると「バスは、あと30秒で到着」と出た、もう視界にバスが見えるころだ。

 一応手を挙げバスが確実に止まってくれるよう態度で示す。バスに乗る時のマナーはまだまだである、皆 順番などお構いなしに乗り込む、大抵前乗りの後ろ降りであるが 混みだすと「後ろから乗るよ!」と運転手に声をかけて後ろから乗る客も増えて満員ギューギューである。自分が次の停留所でおりたいとき 日本なら扉の前に立っている人に「すいません・・次降ります」と言って譲ってもらうが 某国の場合は、扉前の人に「あなた次で降りますか?」と聞くのである。聞かれた側は、降りなければ場所を譲る。これも文化の違いだ。人が少ないときは、運転手が「次降りる人いる?」と大声でどなる、返事がないとその停留所はスルーで通過である。 老人、妊婦を見かければ必ず席を譲る人がほとんどだ、この面では日本人は見習わねばならないほどだ。公共バスは、まさに某国の文化の縮図なのかもしれない。(2017年4月記)

上写真は、バスの充電所でケーブル方式で充電する市内バス。電気バスであり オール電化が進んでいる。下は、大型バッテリー交換型で 大きな棚に入っているのは、1日十分もつ大型車載バッテリー、これを丸ごと入れ替えるだけで 充電時間は、必要ない。