日本の昔話に花咲か爺さんと言う誰でも知っている民話がある。コブ取爺さんと同様、良い爺さんと悪い爺さんの所業と結末を勧善懲悪風で表現している単純なストーリーである。

 某国に同じような民話があるかどうか知らないが、某国社会には本当の花咲か爺さんが存在するのをご存知かな?

 某国首都及びその周辺の冬景色・・・色で例えるとすれば、それは正に灰色の世界である。実際は色黒の世界と言う事はなく、埃っぽい茶系の世界が広がるのであるが、赤や黄や緑色が少ない目に淋しい色気の無い風景なのである。何故そんなに色が乏しいのだろう・・・それは、町に植えられた樹木の殆どが、冬には葉を落とし枝だけが残るからだ。この落葉樹の木々は寒さが厳しくなる11月中旬頃に一斉に葉を落とす。寒さが特に厳しい年は、前の日まで鬱蒼としていたのに一晩で全ての葉が落ちる事さえあった。逆に翌年3月半ばから下旬にかけて、一斉に目を吹き出し4月には見事に緑の世界を再生するのであるが、灰色と緑の世界のギャップはかなり大きいのである。何で針葉樹植えないの・・・杉とか松とか・・これら針葉樹も確かにあるが全体として占める面積が少ないので、少しぐらい植えてあっても埃と噴煙被って周りと変わらず灰色の世界のお手伝いをしているに過ぎない存在である。

 某国首都に街路樹で多く植えられているのが、ポプラの一種で成長の速い種類の木である。幹も太くなって大きく枝を広げるので見栄えもよく 首都の街路樹の多くはこの種類で占められている。また、某国を代表する柳の木も歴史上古くから市民に親しまれていて、街路樹にも使われるが 、冬は幽霊のお岩さんが出てきそうなお姿に変わってしまう。


某国首都の冬景色。春から秋にかけては、緑豊かな公園付近でも河の凍りつく寒い冬はセピア色の世界に変わる。


 この2種の木の共通点は、落葉と言う事だけではない。2種の木は多少の時間差があるが、春先に受精のため胞子を含んだ綿のような白い物体を大量に放出する。町中に綿屑みたいな物が飛び回ってこれが汚らしく見えるのである。但し葉を広げる春から夏にかけては、街路樹として町の緑化に大いに貢献する存在で緑豊かな町景色となるのである。

  某国首都や隣接の天津市では、4月頃から一斉に木々が芽を吹き出し緑が豊かになって行くが、街に咲く花も一斉に開花する。それはそれは場所によって見事な程に色々な花々が咲き誇るのである。でも、冬と春のこのギャップ…あまりにも差が大きい。第一、冬の間木々は殆どほったらかし、雨も滅多に降らないので見事な花を咲かすような手入れはできていないはずだ。しかし、不思議なことに一晩で花々が見事に街を彩ることもある。

  実は、この花を咲かせる仕事人が居るのである。春になると何処ともなく現れる花咲か爺さん! ん?爺さんだけでなく婆さん、おじさん、おばさんも沢山の人が、トラックで蕾みをつけた樹木を運んで植えて回るのだ。彼らは深夜から早朝にかけて作業をするので、一晩にして花街道が出来上がることもある。公園等は、公園自体で花を育てるはまず無いと言って過言ではない。春や夏になると花咲爺さんに頼っているのだ。各市政府は、毎年相当な金を投入していることだろうことが想像できる。


花咲か爺さんがトラックで持ってきた花壇の花である。一晩で町の一角が花で彩られる。


  街路樹の低木では、五月、ツツジ系の植栽が好まれ、春先に大量に業者が植え込み作業をしている。これらは葉が落ちない種類であるが、寒さと冬の風に弱いらしく秋になると緑色の保護カバーで覆われ、折角の葉の緑は生かされないのである。

 昔、会社の同僚が「こっちでは冬に芝生に緑の塗料を吹きかけて色を付けているよ!」と驚いていたが、苦労して導入した欧州の芝生は、冬に白っぽく枯れるのを知らなかったようなのだ。ゴルフ場によく植えられる冬に緑色を維持する芝生類は大量の水を必要とし、病気対策のための薬品が欠かせない。欧米の例を見て、これは良いと思って導入したが手に負えなくなって放置された。こうした失敗を何度を積み重ねて冬景色の改善がなされてきた訳であるが、やはり灰色の冬景色はそう簡単には変わってくれないようである。

  日本人は、桜を愛する為、桜木をよく植えるが、桜は虫が付やすく消毒が欠かせないので維持費が結構かかるのである。某国の街路樹も落葉樹が多く消毒を欠かすと虫が大量に発生して、道路がゴマを噴いたように虫の糞で一杯になるのである。よって対策を打たねばいけないのだが、この消毒作業がまた”えぐい”のである。

 ある日、道を歩いていたら前から沢山の若い女性が悲鳴を上げて走ってきた。何人かの女性が「あ~!やられちゃったよ!もう」とボヤいているのである。前で何が発生しているのか見に行ったところ、大きなポンプ車がゆっくりとこちらに向かって走って来ている。この車には大きなタンクが積まれており、中身は殺虫剤だ!トラックから伸びたホースで係員数名が、消防車の消火作業のように樹木に薬を吹きかけている。周りに人が居ようと、食堂が近くにあろうが、車が路上に停車していようが、何らお構いなしである。ドッドッ!バーッバー・・バシューバシュー!!



こうして車を降りてホースを持ちながら作業をするのは丁寧なほうで 一般的には、タンク車の上に乗ったまま木々にバシュバシュと薬をまいていく。ポンプは、スイッチを切らないまま作業を進めるので、周りに人がいようが、車があろうが 高い樹木に薬を撒きつけていく。



 
幹の低い所から高い所まで、まんべん無く薬を吹き付けるので、その作業車の周りに居たら、薬をまともに浴びてしまう。この薬の臭いがまた強烈である。何人かの女性が退避が遅れてまともに薬を被ったらしい。日本だったら市役所へクレームで怒鳴り込みに来られそうな事態であるが、こちらでは誰も文句も言わない。退避しない方が悪いのである。道路に違法駐車された車も駐車料金をきちんと払って道路脇の白線内に止めている車も皆公平に薬剤と落ち葉の洗礼を浴びている、直ぐに洗車しないと車の塗料が変色する場合もあるのでオーナーも大変である。こうした作業は某国の風景の一つである。

  某国の公園や道路は、冬はあまりにも色がない為、恥ずかしげもなくプラスチックの造花を街路の飾りとして多用して彩られるが、春から夏に掛けて色取り取りの本物の花が咲き乱れる。しかしこのお花畑も先ほど述べた様に人海戦術の賜物なのである。裏作業を知らない人は、春が来たので元々植えていた植物が芽を吹き花が咲いたと考える。ところが冬には赤い土肌を露出していた場所。春のある日、大きなトラックに積まれて持って来られた花や低木類、これを花咲か爺さんたち(作業員)がどっと徴用されて 1日から2日でこれらを夢のお花畑に変えてしまっていたのである。日本の有名な植物園も同じ事をして集客するが、某国では市や国が中心となって、この作業をするので壮大なスケールで行われている。春に一斉に目を噴く木々と共に植えられた花は、豊かな色彩に満ちた夏の予告を告げる。そして花咲か爺さん達は、民話と同じようにお代官様からたっぷりにご褒美をもらって(政府からの作業料金)家路につくのである。
                           (2017年4月記)

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ボクの某国論
其の二十六 花咲か爺さんの巻