ロッキード社の設計技師ケリー・ジョンソンが率いる航空機開発チーム”スカンクワークス”で開発され、1955年8月1日に初飛行したU-2も、その後発展の過程を踏んで、2005年8月に50周年を迎えた。第9戦略偵察航空団(9th
SRW)のあるカルフォルニア州ビール空軍基地では50周年のセレモニーが行われたようだが、同時にU-2の時代も愈々終焉を迎えようとしている。今後、無人偵察機グローバルホークがU-2に取って代わる時代が来るのだそうだ。偵察衛星の技術が進歩し、ゴルフボール代の小さなものでも撮影が可能な現在でも航空機による偵察が必要なのは、戦場ではジャストタイムでの情報収集が欠かせないせいであろう。また、毎日同じコースを同じ時間に通過する偵察衛星では、撮られる側も秘匿対応などの対処が容易である。最近では中国ですら衛星の迎撃実験に成功しており、地上からのミサイルで破壊される可能性も高くなった。1991年の湾岸戦争、イラク戦争でもU-2Sの役割は大きく、米軍が本格攻撃を開始する以前から3000時間近い偵察飛行を行い、綿密にイラクの軍事施設の情報収集をしている。有人偵察機の被撃墜危険性は高い為、無人のグローバルホークへの転換は自然かもしれない。ビール空軍基地には既に”BB”のレターを付けた機体が数機存在する。いよいよ、長い歴史を持つU-2も引退に近づくが、昨年も横田基地の公開時展示されており、暫くの間はU-2を見ることが出来るだろう。(2007/3/10)
モジュールと言う言葉をよく耳にする。特に電子機器などで基本ユニットの構成に追加ユニットを組み合わせる事で、多機能多種の生産を可能にする方法である。パソコンが正にモジュール製品の代表的な物かもしれないが、タワーと呼ばれる箱に様々な基盤を入れることにより機器構成を変えて、機能を追加したり進化させることが出来る訳である。U-2もそう言う思想で設計されていて、よく鼻の長いU-2や背中にこぶをつけたU-2を見るが、どれもがユニットの組み上げにより目的に合わせて取り付けられるのである。
鼻の長いU-2は、ASARSと呼ばれるユニットをつけたもので、レイセオン社が開発したレーダーだ。機体左右1の地上を160Kmに渡り舐めるように捉えるセンサーが付いている。これを自動的に本部に送信してリアルタイムに敵地の情報を掴むことが出来るのである。背中にこぶのようにポッドをつけたものは、衛星とのデータリンクが出来るユニットであり、これまた複数の衛星を使って地球の反対側の地上にあるデータ処理施設に情報を送れるものなのだ。
この優秀な偵察機の名前が、何故戦略偵察や偵察を意味する”SR-2”とか”R-2”ではなく、雑用(Utility)機を意味する”U-2”なのだろうか?その理由は、戦車が”Tank”と呼ばれるようになった事と通じる所がある。ケリー・ジョンソンが設計したグライダーのような羽を持つジェット偵察機は、ソビエト連邦上空を空から見下ろすことを目的でアメリカ空軍に採用されたが、当時アメリカはソ連がICBMの開発成功した後でその配備状況や、また宇宙開発でもリードされて居た為、ソ連の情報を極めて欲していたからである。しかし領空侵犯や周辺空域での偵察行動は、何度か2国間の対立を激化させ国際的にも批判を受けていた為、新たに配備を進めているこのU-2の本来の使用目的をソ連に知られたくなかった事が原因であると言われる。対外的には、NASAなどが気象観測などを目的に開発している機体に見せたかったと言うわけだ。また万一撃墜された場合も「高空気象観察で誤って入り込んでしまった」等の言い訳をするつもりでいたようだ。第一次大戦中、戦車を開発していたイギリスが、ドイツ帝国にこの新型兵器の存在を知られたくない為、プロジェクト名に”水タンク”を連想させる「Tank」と名付けたが、これが戦車=タンクと呼ばれる所以となった事に似ている。
U-2S (68-10331)
2005年に引き続き、2006年横田で公開されたU-2Sの68-10331。昨年は、厚木のWing-95に参加してから10年ぶりの横田参加である。当時と同じ”BB"のレターは無く,黒猫を書き込んでいる。2006年8月の横田公開にて・・・
厚木基地で公開終了後 すぐにハンガーに格納されるU-2S(80-1085)本拠地であるカルフォルニア州ビール空軍基地から韓国オーサン空軍基地に派遣されている9th
BW/5th BS所属。やはり 厚木基地の米軍スタッフからしても要請して来てくれた機体の中ではVIP級の扱いをする。
U-2S (80-1085)
エンジンの排出口カバーには"黒猫”マークが有った。U-2の周辺には、仮に機体の尾翼にも機首にも書かれていなくても、どこかに台湾の陳中尉が考案したこの”Black
Cats"のデザインを見ることが出来る筈だ。しかし、この謂れを知っている人は極めて少ないだろう。
(2006)
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U-2S (80-1073)